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仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)482号 判決 1955年3月11日

控訴人・付帯被控訴人(被告) 岩手県知事

被控訴人・付帯控訴人(原告) 菅原磯吉

被控訴人(原告) 菅原ヲシマ

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が(一)、昭和二十四年八月一日附岩手を第二五二〇号買収令書をもつて別紙目録記載(1)、(2)、(3)の各土地につきした買収処分及び(二)、同日附岩手を第二五一六号買収令書をもつて右目録記載(4)の土地につきした買収処分はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す、被控訴人等の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする」との判決並びに附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決並びに被控訴人菅原磯吉の附帯控訴につき「原判決中被控訴人菅原磯吉敗訴の部分を取消す、控訴人が昭和二十四年八月一日附岩手を第二五二〇号買収令書をもつて別紙目録記載の(1)、(2)、(3)の各土地につきした買収処分は一畝六歩の部分(原判決で取消された範囲を超える部分)についてこれを取消す、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする、」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、「被控訴人ヲシマが被控訴人磯吉方から分家したのは昭和二十一年十月二十五日である。さきに右分家をしたのが昭和十五年四月三十日であるとの被控訴人等の主張事実を認めたのは誤りであるから訂正する。」と述べ、被控訴人等代理人において、「右訂正に異議ない、被控訴人ヲシマは昭和十五年四月三十日事実上分家し昭和二十一年十月二十五日戸籍上分家の届出をしたものである。」と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(証拠省略)

理由

別紙目録記載の各田畑につき昭和二十四年三月三日金田一村農地委員会が昭和二十年十一月二十三日の基準時現在の事実に基き旧自作農創設特別措置法第三条第一項第二号に該当する農地として買収計画を樹立しその旨公告し、その後被控訴人等主張の経緯により昭和二十四年八月一日附被控訴人磯吉宛主文掲記の各買収令書が同年十二月十三日同被控訴人に交付され被控訴人等主張の買収処分がされたことは当事者間に争がない。

そこで先ず右目録記載(4)の土地の前記基準時における所有関係について判断するに、成立に争のない甲第一号証と原審証人佐藤市太郎、細田徳治、当審証人槻館長四郎、村田与四郎、当審における被控訴人磯吉本人の各供述及び右磯吉本人の供述により成立を認める甲第十二号証を綜合すると、被控訴人ヲシマは昭和二十一年十月二十五日被控訴人磯吉家から分家する旨の届出をした(この点については当事者間に争がない)が、同被控訴人はこれより先昭和十五年に事実上の分家をしたものであつて、その際右(4)記載の畑九反二畝二十三歩と畦畔十六歩を被控訴人磯吉から贈与を受けてその所有権を取得し、爾来被控訴人磯吉と世帯を別にしてきたこと、右土地のうち畑六反八畝歩((4)の土地)はさきに右磯吉が佐藤市太郎外三名に小作させてきたが被控訴人ヲシマにおいて右贈与を受けた後は同被控訴人がその小作料を収納取得してきたことが認められる。この点に関する当審証人沢田末治の証言はこれを採用し難く、成立に争のない乙第一号証によつても右認定を覆すに足らず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

従つて右(4)の土地についての本件買収処分は原判決のこの点に関する判断と同一の理由により違法として取消を免れないものと認めるから原判決の右摘示を引用する。

次に右目録記載の(1)、(2)、(3)の各田畑が被控訴人磯吉の住所のある金田一村の区域内において同人の所有する小作地であること、同被控訴人所有の農地は右認定の(4)の土地(畑九反二畝二十二歩と畦畔十六歩)を除外し、第三、五、七期の各買収により買収済の分を除き、本件買収計画公告当時において自作地一反九畝二十八歩、小作地一町一反一畝六歩であることは当事者間に争がなく、その基準時当時においても右除外部分の面積に変りがないものと認められるから、その所有小作地面積は旧自作農創設特別措置法第三条第一項第二号に基く岩手県における法定の小作地保有面積一町一反を一畝六歩超えることが明白である。しかるに本件買収処分により控訴人が被控訴人から買収した前記(1)、(2)、(3)の土地についてみると、その面積合計は二反一畝二十二歩であつて、右法定の小作地保有面積を超えた面積一畝六歩より二反十六歩過大であり、従つて右買収処分は前記法律において認める小作地保有面積を二反十六歩侵した違法のあることが明白である。案ずるに知事が農地の所有者に対し、旧自作農創設特別措置法第三条第一項第二号の法定の小作地保有面積を超えるものとして右小作地中の一部を買収した場合に、右買収した土地の面積が過大であつてこれがため保有を許された面積を侵すに至つた違法は、右買収した土地の如何なる部分を買収したことにその違法が存するかにつきその土地の範囲を具体的に確定するに由ないものであるから、右違法は買収処分の全部に存在するに帰し、結局右土地についての買収処分は全部これを違法として取消を免れないものといわなければならない。従つて本件につき控訴人が前記(1)、(2)、(3)の土地についてした右買収処分は全部これを違法として取消すべきものである。

よつて原判決は前記(4)の土地の買収処分を取消した部分は正当であるが、(1)、(2)、(3)の土地に関しては全部その買収処分を取消すべきであるのに一部これを取消し一部その取消をしなかつた不当があるから、原判決は右認定の範囲においてこれを変更すべきものである。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 佐々木次雄 畠沢喜一)

(目録省略)

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